1.1 式の展開とは
式の展開とは、積の形で書かれた式を計算して、単項式の和の式にすることです。具体的には、多項式同士の「かけ算の式」のカッコを外し、単項式の「足し算の式」の形に変換する操作を指します。
例:\((x+a)(x+b)\) を展開すると \(x^2 + (a+b)x + ab\) となります。
式の展開と因数分解は互いに逆の操作であり、一方を理解することが他方の理解を深める上で非常に重要です。
本アプリケーションは、中学数学における代数分野の根幹をなす「式の展開」、「因数分解」、「式の計算」、そして「平方根」について、その基本原理から複雑な応用問題の解法に至るまでをインタラクティブに解説することを目的としています。これらの単元は、高校数学、さらにはその先の学習へと進む上での重要な礎となります。単に計算方法を覚えるだけでなく、なぜそのような操作が成り立つのか、複雑な問題にどのようにアプローチすればよいのかという思考プロセスを理解することが、真の学力向上には不可欠です。このアプリケーションを通じて、これらの概念の奥深さと面白さを感じ取り、数学的な思考力を養う一助となれば幸いです。左のナビゲーションから学習したい項目を選択してください。
式の展開は、代数計算の基本的な操作の一つであり、多項式の積を和の形に変換するプロセスです。これにより、式の構造をより単純な要素の組み合わせとして理解することができます。この章では、展開の基本である分配法則から、計算を効率化する乗法公式、さらに複雑な式を展開するための置き換えといったテクニックまでを学びます。
式の展開とは、積の形で書かれた式を計算して、単項式の和の式にすることです。具体的には、多項式同士の「かけ算の式」のカッコを外し、単項式の「足し算の式」の形に変換する操作を指します。
例:\((x+a)(x+b)\) を展開すると \(x^2 + (a+b)x + ab\) となります。
式の展開と因数分解は互いに逆の操作であり、一方を理解することが他方の理解を深める上で非常に重要です。
式の展開における最も基本的なルールは分配法則です。かっこ全体に掛けてある数や式を、かっこ内の各項すべてに個別に掛け合わせるという法則です。
基本形: \(A(B + C) = AB + AC\), \((A + B)C = AC + BC\)
問題1: \(3(x+4)\) を展開しなさい。
解法: \(3(x+4) = 3 \times x + 3 \times 4 = 3x + 12\)
問題2: \((x+3)(x+4)\) を展開しなさい。
解法:
注意点:負の数を分配する際は符号の変化に注意しましょう。例:\(-2(3x+1) = -6x - 2\)
乗法公式は、特定の形の多項式の積を効率的に展開するためにまとめられた便利な道具です。分配法則を基礎として理解した上でこれらの公式を習得すると、計算の正確性と速度が向上します。
公式 | 展開結果 | 備考 |
---|---|---|
\((x+a)(x+b)\) | \(x^2 + (a+b)x + ab\) | 基本公式 |
\((a+b)^2\) | \(a^2 + 2ab + b^2\) | 完全平方式 |
\((a-b)^2\) | \(a^2 - 2ab + b^2\) | 完全平方式 |
\((a+b)(a-b)\) | \(a^2 - b^2\) | 和と差の積 |
\((a+b+c)^2\) | \(a^2 + b^2 + c^2 + 2ab + 2bc + 2ca\) | 3項の平方 (応用) |
結果:
問題1: \((x+3)(x+5)\) を展開しなさい。
解法: 公式 \((x+a)(x+b) = x^2 + (a+b)x + ab\) を利用します。
\((x+3)(x+5) = x^2 + (3+5)x + (3 \times 5) = x^2 + 8x + 15\)
答え: \(x^2 + 8x + 15\)
問題2: \((x+6)^2\) を展開しなさい。
解法: 公式 \((a+b)^2 = a^2 + 2ab + b^2\) を利用します。
\((x+6)^2 = x^2 + 2 \times x \times 6 + 6^2 = x^2 + 12x + 36\)
答え: \(x^2 + 12x + 36\)
問題3: \((3x+4y)(3x-4y)\) を展開しなさい。
解法: 公式 \((a+b)(a-b) = a^2 - b^2\) を利用します。
\((3x+4y)(3x-4y) = (3x)^2 - (4y)^2 = 9x^2 - 16y^2\)
答え: \(9x^2 - 16y^2\)
複雑な式の展開では、式の一部を別の文字で置き換える「置き換え」が有効です。これにより式を見やすくし、基本公式を適用しやすくします。
問題: \((x+y-3)(x+y+2)\) を展開しなさい。
解法ステップ:
答え: \(x^2 + 2xy + y^2 - x - y - 6\)
問題: \((x+y+1)(x-y-1)\) を展開しなさい。
解法ステップ:
答え: \(x^2 - y^2 - 2y - 1\)
因数分解は、式の展開の逆の操作で、多項式をいくつかの単項式や多項式の積の形に分解することです。二次方程式の解法や式の簡略化など、数学の多くの場面で不可欠な技術となります。この章では、因数分解の基本から応用テクニックまでを解説します。
因数分解とは、与えられた多項式を、いくつかの単項式や多項式の積の形で表現し直すことです。展開の全く逆の操作に相当します。
例:\(x^2 + 5x + 6\) を因数分解すると \((x+2)(x+3)\) となります。
積の形を作っている個々の式や数のことを「因数」と呼びます。
因数分解の最初のステップは、全ての項に共通する因数(数や文字)を見つけてくくり出すことです。
問題1: \(nx + ny\) を因数分解しなさい。
解法: 各項に \(n\) が共通しているので、\(n(x+y)\) となります。
問題2: \(6x^2 + 9x\) を因数分解しなさい。
解法: 係数の最大公約数は \(3\)、文字部分は \(x\) が共通。よって共通因数は \(3x\)。
\(6x^2 + 9x = 3x(2x+3)\)
共通因数でくくった後、または共通因数がない場合、乗法公式を逆にした因数分解の公式を利用します。
公式(展開された形) | 因数分解結果(積の形) |
---|---|
\(x^2 + (a+b)x + ab\) | \((x+a)(x+b)\) |
\(a^2 + 2ab + b^2\) | \((a+b)^2\) |
\(a^2 - 2ab + b^2\) | \((a-b)^2\) |
\(a^2 - b^2\) | \((a+b)(a-b)\) |
結果:
問題1: \(x^2 + 5x + 6\) を因数分解しなさい。
解法: かけて \(6\)、たして \(5\) になる2つの数は \(2\) と \(3\) です。
よって、\((x+2)(x+3)\)
答え: \((x+2)(x+3)\)
問題2: \(x^2 + 6x + 9\) を因数分解しなさい。
解法: \(x^2\) は \(x\) の2乗、\(9\) は \(3\) の2乗。真ん中の項 \(6x\) は \(2 \times x \times 3\)。これは \(a^2 + 2ab + b^2 = (a+b)^2\) の形です。
よって、\((x+3)^2\)
答え: \((x+3)^2\)
問題3: \(x^2 - 36\) を因数分解しなさい。
解法: \(x^2\) は \(x\) の2乗、\(36\) は \(6\) の2乗。これは \(a^2 - b^2 = (a+b)(a-b)\) の形です。
よって、\((x+6)(x-6)\)
答え: \((x+6)(x-6)\)
式の中に共通する部分(塊)がある場合、それを一時的に別の文字に置き換えて単純化します。
問題: \((a+b)^2 + 6(a+b) + 9\) を因数分解しなさい。
解法ステップ:
答え: \((a+b+3)^2\)
複数の文字を含み、公式が直接使えない場合、最も次数が低い文字について式を整理します。
問題: \(x^2 + xy - z^2 - yz\) を因数分解しなさい。
解法ステップ:
答え: \((x-z)(x+y+z)\)
\(x^2\) の係数が \(1\) ではない二次式 \(ax^2 + bx + c\) を因数分解する際に使います。
手順: \(ax^2\) を \(a_1x \cdot a_2x\)、定数項 \(c\) を \(c_1 \cdot c_2\) に分解し、\(a_1c_2 + a_2c_1 = b\) となる組み合わせを見つけます。結果は \((a_1x + c_1)(a_2x + c_2)\) (または \((a_1x + c_2)(a_2x + c_1)\))。
問題: \(3x^2 + 11x + 10\) を因数分解しなさい。
解法:
3x 5 | x × 5 = 5x ╲ ╱ | ╲ ╱ | ╲╱ | ← これらを足し合わせる ╱╲ | ╱ ╲ | ╱ ╲ | x 2 | 3x × 2 = 6x -------------------------- (3x⋅x) (5⋅2)| 5x + 6x = 11x (xの係数と一致!)
上の図のように、\(3x^2\) を \(3x\) と \(x\) に、\(10\) を \(5\) と \(2\) に分解します。
たすきに掛けた積は \((3x \times 2) = 6x\) と \((x \times 5) = 5x\) です。
これらの和が \(6x + 5x = 11x\) となり、元の式の \(x\) の係数と一致します。
したがって、因数分解の結果は、横の組み合わせで \((3x+5)(x+2)\) となります。
答え: \((3x+5)(x+2)\)
式の計算は、代数的な表現を正確かつ効率的に操作するための基本的な技能です。加法、減法、乗法、除法といった基本的な演算に加え、分数式の扱いや計算の順序、工夫などが含まれます。この章ではこれらの計算方法と注意点を学びます。
基本は「同類項をまとめる」ことです。同類項とは、文字の部分と各文字の次数が全く同じである項を指します。
問題 (加法): \((2x + 3y) + (-3x + 4y)\) を計算しなさい。
解法: \(2x + 3y - 3x + 4y = (2-3)x + (3+4)y = -x + 7y\)
答え: \(-x + 7y\)
問題 (減法): \((x-5y+3) - (2x-10y-4)\) を計算しなさい。
解法: カッコを外す際に引く方の式の各項の符号を変えます。
\(x - 5y + 3 - 2x + 10y + 4\)
\(= (x - 2x) + (-5y + 10y) + (3 + 4)\)
\(= -x + 5y + 7\)
答え: \(-x + 5y + 7\)
乗法: 分配法則を繰り返し用います。
除法 (多項式 \(\div\) 単項式): 各項を単項式で割るか、逆数を掛けて分配法則を適用します。
問題 (乗法): \(3x \times (2x - 5y)\) を計算しなさい。
解法: \((3x \times 2x) + (3x \times (-5y)) = 6x^2 - 15xy\)
答え: \(6x^2 - 15xy\)
問題 (除法): \((18x - 9y) \div 9\) を計算しなさい。
解法: \((18x - 9y) \times \frac{1}{9} = \frac{18x}{9} - \frac{9y}{9} = 2x - y\)
答え: \(2x - y\)
通分: 加法・減法では分母を揃えます。
約分: 分子・分母の共通因数で割ります。多項式の場合は因数分解してから約分します。
乗法: 分子同士、分母同士を掛けます。
除法: 割る方の分数の逆数を掛けます。
問題: \(\frac{3x+1}{3} \times (-9)\) を計算しなさい。
解法: \(\frac{3x+1}{3} \times (-9) = (3x+1) \times \frac{-9}{3} = (3x+1) \times (-3) = -9x - 3\)
答え: \(-9x - 3\)
問題: 方程式 \(\frac{7x-5}{8} = \frac{x+3}{3}\) を解きなさい。
解法ステップ:
答え: \(x = 3\)
平方根は、2乗すると特定の数になる数を指します。無理数という新しい数の概念を導入し、図形の計量や二次方程式の解法など、数学の様々な分野で応用されます。この章では、平方根の定義、性質、計算方法、有理化、近似値の扱いなどを学びます。
ある数 \(N\) に対し、「2乗すると \(N\) になる数」を \(N\) の平方根といいます。
例:\(4\) の平方根は \(2\) と \(-2\) です (\(\pm 2\))。
記号 \(\sqrt{N}\) (ルートN) は、\(N\) の平方根のうち「正の数の方」を表します (\(N \geq 0\))。
例:\(\sqrt{4} = 2\)。\(4\) の平方根は \(\pm\sqrt{4} = \pm 2\)。
ルートの中の数をできるだけ小さな整数にする操作です。素因数分解し、ペアになった数をルートの外に出します。
結果: =
問題1: \(\sqrt{12}\) を簡単にしなさい。
解法: \(12 = 2^2 \times 3\) なので、\(\sqrt{12} = \sqrt{2^2 \times 3} = 2\sqrt{3}\)
問題2: \(\sqrt{72}\) を簡単にしなさい。
解法: \(72 = 2^2 \times 3^2 \times 2 = 36 \times 2\) なので、\(\sqrt{72} = \sqrt{6^2 \times 2} = 6\sqrt{2}\)
乗法・除法: ルートの中の数同士で計算します。
加法・減法: ルートの中の数が同じ項同士で、係数を計算します。ルートの中の数を直接足し引きはできません。
問題 (乗法): \(\sqrt{6} \times \sqrt{21}\)
解法: \(\sqrt{6 \times 21} = \sqrt{126} = \sqrt{9 \times 14} = 3\sqrt{14}\)
問題 (加法): \(\sqrt{12} + \sqrt{27}\)
解法: まず簡約化。\(\sqrt{12} = 2\sqrt{3}\), \(\sqrt{27} = 3\sqrt{3}\)。
よって、\(2\sqrt{3} + 3\sqrt{3} = (2+3)\sqrt{3} = 5\sqrt{3}\)
問題 (混合): \(\frac{\sqrt{24}}{3} - \sqrt{14} \div \sqrt{21}\)
解法ステップ:
答え: \(\frac{\sqrt{6}}{3}\)
分数式の分母から平方根を取り除く操作。分母にある平方根と同じ数を分母と分子に掛けます。
問題1: \(\frac{\sqrt{2}}{\sqrt{3}}\) を有理化しなさい。
解法: \(\frac{\sqrt{2} \times \sqrt{3}}{\sqrt{3} \times \sqrt{3}} = \frac{\sqrt{6}}{3}\)
問題2: \(\frac{6}{\sqrt{18}}\) を有理化しなさい。
解法: まず分母を簡約化 \(\sqrt{18} = 3\sqrt{2}\)。式は \(\frac{6}{3\sqrt{2}} = \frac{2}{\sqrt{2}}\)。
有理化して \(\frac{2 \times \sqrt{2}}{\sqrt{2} \times \sqrt{2}} = \frac{2\sqrt{2}}{2} = \sqrt{2}\)
よく使われる近似値: \(\sqrt{2} \approx 1.414\), \(\sqrt{3} \approx 1.732\), \(\sqrt{5} \approx 2.236\)
大小比較: 正の数 \(a, b\) について、\(a < b \Leftrightarrow \sqrt{a} < \sqrt{b}\)。ルートがない数は2乗してルートの中に入れて比較します。
問題 (近似値): \(\sqrt{32}\) の近似値を求めなさい (\(\sqrt{2} \approx 1.414\) とする)。
解法: \(\sqrt{32} = 4\sqrt{2} \approx 4 \times 1.414 = 5.656\)
問題 (大小比較): \(3\) と \(\sqrt{7}\) の大小を比較しなさい。
解法: \(3 = \sqrt{9}\)。 \(\sqrt{9} > \sqrt{7}\) なので \(3 > \sqrt{7}\)。
問題 (応用): \(\sqrt{5}\) の小数部分を \(x\) とするとき、\(x(x+4)\) の値を求めなさい。
解法ステップ:
答え: \(1\)
平方完成は、二次式 \(ax^2+bx+c\) を \(a(x+p)^2+q\) の形に変形する操作です。二次関数のグラフの頂点を求めたり、二次方程式の解の公式を導いたりする際に用いられる非常に重要なテクニックです。
二次式に含まれる変数を2乗の形で1箇所にまとめ、式全体の構造を扱いやすくします。
例:\(x^2+4x+1\) は平方完成すると \((x+2)^2-3\) となります。
メリット:
基本は \((x+A)^2 = x^2+2Ax+A^2\) を利用し、\((x + (\text{xの係数の半分}))^2\) の形を作ります。
問題1 (\(x^2\)の係数が1): \(x^2+8x-3\) を平方完成しなさい。
解法:
答え: \((x+4)^2 - 19\)
問題2 (\(x^2\)の係数が1でない): \(2x^2+8x+5\) を平方完成しなさい。
解法:
答え: \(2(x+2)^2 - 3\)
問題3 (分数が出る場合): \(3x^2+2x+1\) を平方完成しなさい。
解法:
答え: \(3(x+\frac{1}{3})^2 + \frac{2}{3}\)
本アプリケーションでは、中学数学における代数の基礎となる「式の展開」、「因数分解」、「式の計算」、「平方根」、そして「平方完成」について、定義から応用的な解法までをインタラクティブに解説しました。これらの単元は互いに関連し合っており、一つの理解が他の理解を助けます。
本アプリケーションで示した考え方や解法、そして多くの例題を通じて、これらの重要な数学的概念に対する深い理解と自信を得られることを願っています。数学的な思考力を養い、問題解決能力を高めるためには、単に解法を暗記するのではなく、なぜそうなるのかを常に問い、様々な問題に粘り強く取り組む姿勢が大切です。